
田貫湖畔
1月
新年の始まりに気が引き締まる季節です。1月は年間でも晴天になる日が多く、風のない日は湖面に富士山が映り、絵に描いたような「逆さ富士」を見ることができます。湖面には水鳥たちが羽繕いをしたり水に潜って餌を漁ったりしている姿が見られ、冬の湖畔ならではの水鳥観察が楽しめます。また、葉が落ちて枯れてしまったかに思える木々の枝先には、春を待つ葉やつぼみが眠る「冬芽」が見られます。冬芽は樹種によって形や質感がさまざまで、毛布のようにフワフワしたものもあります。湖畔を散策しながら、お気に入りの冬芽を探してみてはいかがでしょうか。
【1月の生き物】
植物:サザンカ
野鳥:キンクロハジロ、ヒドリガモ、マガモ、ホシハジロ、ツグミ、ジョウビタキ、ウソ






2月
冬の寒さが一段と厳しい季節です。富士山の冠雪量も多くなり、美しさが一層引き立ちます。こんな寒い季節でも、湖畔で富士山を眺めながら、ウォーキングやヘラブナ釣り、冬キャンプなどをお楽しみいただけます。生き物たちはどうでしょうか。植物では、木々の芽が少しずつ膨らみはじめ、静かに春への準備をしています。虫たちは、落葉の中や石の下、木の皮になど隠れて冬ごもりをしています。春を待つ自然の姿に目を向けることも、この時期の楽しみ方の一つです。
【2月の生き物】
植物:クロモジ(つぼみ)、アセビ
野鳥:キンクロハジロ、ヒドリガモ、マガモ、ホシハジロ、ツグミ、アオジ、ジョウビタキ、ウソ、イカル






3月
朝晩は冬の寒さが残りますが、「小さな春」を探して歩くのが楽しい時期です。田貫湖では、水鳥たちの数が次第に少なくなります。繁殖のため、ここから数千キロも離れたシベリア大陸に向けて旅立つのです。湖畔では徐々に咲きはじめる花もあります。みなさんは「ミツマタ」という花をご存じでしょうか?早春の時期、葉の出ていない低木の枝先に、小さな黄色いポンポンのような花がつきます。田貫湖に春の訪れを教えてくれる花のひとつです。みなさんもぜひご自身の足で「小さな春」探しをお楽しみください。
【3月の生き物】
植物:ミツマタ、アセビ、ヒサカキ、キランソウ、オオイヌノフグリ、スイセン
野鳥:キンクロハジロ、ヒドリガモ、マガモ、ホシハジロ、アトリ、ツグミ、ジョウビタキ、ウソ、イカル





4月
暖かい春の日差しが注ぎ、富士山の冠雪も徐々に減って田貫湖の湖面がキラキラと輝き出す季節です。スミレやタンポポなどの花が道端を彩り、ハチやチョウが蜜を探しに空を飛び交います。湖畔のサクラは中旬に満開となり、見ごろを迎えます。田貫湖ではマメザクラという種類のサクラが見られますが、富士山周辺に多いことから「フジザクラ」と呼ばれています。小振りな木で、白色を帯びた花を下向きに咲かせるのが特徴ですが、ひかえめに咲く姿に美しさを感じます。みなさんも、湖畔でお気に入りの春らしい光景をぜひ探してみてください。
【4月の生き物】
植物:マメザクラ、ヒサカキ、トウカイタンポポ、ニリンソウ、タチツボスミレ
野鳥:ウグイス、カワラヒワ、アオゲラ、キジ
その他:アマヒキガエル、シュレーゲルアオガエル、ビロウドツリアブ、ベニシジミ





5月
鮮やかな新緑と湖の景色が楽しめる季節です。湖畔には鳥のさえずり声が響きわたり、生き物たちの繁殖シーズンが始まります。鳥たちは、オスがメスに自分の存在をアピールしたり、他のオスに縄張りを主張するため懸命に鳴いているのです。水辺では、バシャバシャと大きな水音が聞こえることがあります。釣り人から人気のある「ヘラブナ」が浅瀬に生える水草やアシの根などに卵を産み付けている音です。心地よい初夏の風に吹かれながら、生き物たちの暮らしを観察してみましょう。
【5月の生き物】
植物:ミズキ、コアジサイ、フジ、ニシキウツギ
野鳥:カイツブリ、センダイムシクイ、オオルリ、キビタキ、ツツドリ、カッコウ
その他:ヘラブナ、アオダイショウ、カナヘビ





6月
梅雨入りの季節です。田貫湖周辺は天気が変わりやすく、予報にはない雨が降ることもあります。湖畔散策には折り畳み傘やレインウェアがあるとよいでしょう。湖畔を歩いていると、道沿いの柵や草木に、立派なヤゴの脱け殻がたくさん見つかります。「オオヤマトンボ」の脱け殻です。なぜヤゴは夜のうちに脱皮するのでしょうか。それは天敵に襲われるのを避けるため。彼らにとって脱皮は命がけなのです。脱皮する瞬間を見る際は、温かく見守ってください。
【6月の生き物】
植物:ノリウツギ、コアジサイ、ノアザミ、キンポウゲ、ツユクサ、ニワゼキショウ
野鳥:カワセミ、オオルリ、ホトトギス、サンショウクイ
その他:オオヤマトンボ、イトトンボ、スジグロシロチョウ、オバボタル





7月
梅雨明けの季節です。夏の田貫湖は天候が変わりやすく、夏の暑さを感じる日でも午後には急に雨が降り出すこともあります。湖畔ではセミが本格的に鳴きはじめ、夏の到来を感じる季節です。湖に目をやると「カイツブリ」という褐色の小さな水鳥が泳いでいます。水に潜って小魚などを捕り、しばらくすると思わぬところから姿を現します。しかし、水中で魚を捕るのは簡単なことではありません。初夏生まれの子どもたちが一生懸命潜って餌を捕る練習をします。カイツブリを見かけたら、彼らの成長を優しく見守ってあげましょう。
【7月の生き物】
植物:ツユクサ、ネジバナ、ヤマアジサイ、アカメガシワ、ヤマユリ、ウツボグサ
野鳥:カイツブリ、カルガモ、セグロセキレイ
その他:ヒグラシ、オトシブミ、ウチワヤンマ、コシアキトンボ、シオカラトンボ






8月
夏の陽射しが降りそそぐ一方、空に立ち上る大きな入道雲は午後には富士山を隠してしまうこともしばしば。湖畔を歩くと、ツクツクボウシの声に夏の雰囲気を掻き立てられます。水辺では、トンボの姿が目につきます。田貫湖では多くのトンボが繁殖期を迎え、オスのトンボたちは縄張りを守るのに大忙し。水辺にやってくるメスを待ちつつ、他のオスを追い払い、さらには餌となる昆虫を捕るなど、忙しく飛び回っています。暑さに負けず、命を繋ごうとする彼らの姿は必見です。
【8月の生き物】
植物:タマアジサイ、ホタルブクロ、アキノタムラソウ、キツネノカミソリ、ナギナタコウジュ
野鳥:カワウ、カルガモ、カイツブリ
その他:ツクツクボウシ、ツマグロヒョウモン、オニヤンマ、ショウリョウバッタ






9月
秋雨前線の影響で、年間でも天気が崩れやすい季節です。田貫湖の裏手にそびえる長者ヶ岳から暗い雲が降りてくると、雨が降り出す兆候です。このように、自然の様子から天気の変化を予測することを「観天望気」といいます。富士山麓では昔から、富士山にかかる「笠雲」を見て天気を予測してきました。実際、笠雲がかかってから24時間以内に雨が降る確率は約70~80%と信憑性の高い数字です。先人たちは生活の中で自然をよく観察し、こうした知恵を蓄えてきたのです。今はインターネットでなんでも調べられる時代ですが、刻々と変化する自然に目を向け、自分の目で確かめることも大切にしていきたいものです。
【9月の生き物】
植物:ユウガギク、イヌタデ、トネアザミ、ゲンノショウコ、マツカゼソウ、キンミズヒキ
野鳥:トビ、カワウ、カルガモ、カイツブリ
その他:アキアカネ、ウチワヤンマ、コバネイナゴ、モリオカメコオロギ





10月
朝晩がすっかり肌寒くなり、秋の訪れを感じる季節です。湖畔を歩くと、トウモロコシのような形をして赤い実をつけた「マムシグサ」という植物を目にします。多くの植物は、目立つ色の実をつけることで鳥や動物に食べてもらい、種を遠くまで運んでもらいます。しかし、マムシグサは食べると口の中が痛くなる毒を持ちます。たまにシカに食べられたものを見かけますが、あまり好んで食べるものではなさそうです。マムシグサの実は本当に鳥や動物に食べてほしいものなのでしょうか。自然の中で「どうして?」と感じる気持ちを大切にすると、新しい発見があるかもしれません。
【10月の生き物】
植物:マムシグサ、アオツヅラフジ、ミヤマガマズミ、アキノキリンソウ、キバナアキギリ、ユウガギク
野鳥:オオバン、マガモ、ヒドリガモ、カケス、ヤマガラ
その他:エンマコオロギ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ





11月
空気が澄み、富士山を見るには最適な季節です。田貫湖には、何千キロも離れたシベリアの北国から水鳥たちが渡ってきます。どうして渡りをするのでしょうか?寒さの厳しいシベリアでは冬になると餌がとれなくなってしまうため、食べ物が豊富な田貫湖で冬を過ごすのです。そして、食べ物がたくさん出る春になると、競争相手の少ないシベリアへと帰っていくのです。これからは水鳥たちの観察にもってこいのシーズン。暖かい恰好をして、湖畔から見られる水鳥たちの様子をお楽しみください。
【11月の生き物】
植物:イヌタデ、ヨモギ、トネアザミ、ノコンギク、サザンカ
野鳥:オオバン、マガモ、ヒドリガモ、、オシドリ、ホオジロ、ジョウビタキ
その他:アカスジキンカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、ジョロウグモ






12月
澄み渡る冷たい空気とともに、本格的な冬がやってきました。湖の向こうには雪をまとった雄大な富士山が広がり、湖面にはたくさんの水鳥たちが浮かんでいます。厳しい冷え込みの中でも水に浸かっている彼らを見て「しもやけにならないの?」と不思議に思ったことはありませんか?その秘密は、足に備わった「ワンダーネット」と呼ばれる特殊な血管構造です。この仕組みのおかげで、カモたちは冷たい水に足を浸していても、体の深部が冷えないようになっているのです。暖房も防寒着もない自然界。彼らの身体には、己の身一つで生きていくための様々な秘密が隠されているのです。
【12月の生き物】
植物:サザンカ、ウメモドキ(実)、ノイバラ(実)
野鳥:キンクロハジロ、ホシハジロ、ホオジロガモ、ヒドリガモ、ジョウビタキ
その他:コウベモグラ




